16の夏

事実の距離が心すらも遠ざける。

 

好きな人を人生の支柱にしてはいけない

これは私が16の夏に学んだこと。

 

支柱が抜けた今、私は崩れて雪崩て原型を留めていない。心の隙間を埋めるためにオススメされた音楽を聴いて、オススメされた漫画を読んで、オススメされたアイスを食べて。

 

染まったら同じだよ。

そんな言葉は届かず、私は藍色に染まってく。

 

家が離れている。

年齢が離れている。

 

そんな事実的な「離れ」で心すら遠ざけられる。

価値観も好きなものも近いはずなのに、事実の方が力を持つのは、足掻いても変えられないからだろう。

 

途方に暮れて昼夜逆転して日が1番高い時間に目覚めたある日。

 

大人になりたくて。大人になりたくて。

落ち着きのあるワンピースで家を飛び出た。

 

R-18のポルノ映画を見て

夏の為の貯金を電子的な海に流して

残った小銭でマルボロを買った。

 

こんなことしたって明日目覚めたらそこにいるのは16の私だって、あと600日以上踏まないと18になれないって1番わかっていたけれど。

 

それでも少し近づきたかった。

タバコもパチンコもポルノも興味が無い人間だけれど。

 

映画終わりに携帯を見たら「今日は落ち込んでいるから会えない」と連絡が来ていた。

 

腹立ったしクソー!と思ったけどそれ以上に会ったら元気が出ると思われていないことがとても悔しかった。

 

どうにもならなくて漫画をありったけ買って、欲しかったCDを買って、銀杏BOYZのレコードを買って、焼き鳥を買って帰った。

 

手がちぎれそうになりながら7つの袋を引っさげて夜の街をふらついていたら、最寄りのベンチに君がいた。

 

これが本物か幻想かは分からないけれど今日も綺麗な顔立ちで一瞬目があって私を見てビックリして大きく口を開けていた。

マスクしているはずだしやっぱり幻想だったのかな。

 

足をとめずに会釈をして対角を広げていく。

下を向いたら振り向きたくなるから、少しでもスピードを落としたら立ち止まりたくなるから前を向いてぐんぐんと。

 

気づいたらバス停に並んでいた。

夏の夜、外気よりも自分の体が熱くなっていたことに手で触れずとも気づいた。

 

これが恋か。

君に恋してるんだな、それだけで明日も苦しくて生きれる気がした。

 

【追記】

そしてこの日、今の彼女と出会った日でもあったらしい。